怪我と趣味について

右脚を内転させると脚の付け根に嫌な痛みがはしる。日常生活に支障が出るほど痛むわけではないけど、それでも思うように走ることはできないし、ハイステップでホールドに乗り込むこともできない。少しでも内転筋に力が入ると、ぴきっと脚に痛みがはしる。

いつ痛めたのか正確なタイミングはわからないが、痛み始めてだいたい1ヶ月ほどが経った。それまでは気持ちよく毎朝走って(ちょうど走り始めて1ヶ月くらいだった)週に2日、3日のペースでボルダリンジムに通っていた。クライミングのために少しでも体を軽くしようと思って、そこそこに厳しく糖質を制限して、朝に5キロほどのランニングを続けた成果が出始めて、人生最高体重だった体がしぼみ始めた頃だった。

去年は5月にハムストリングスの肉離れをおこし、完治するまでに3ヶ月かかった。その後、9月半ばに左足首を捻挫して12月末まで自由に体を動かすことができなかった。どちらもクライミング中の怪我だった。

年が明けてから足の様子を見つつまたクライミングを始めた。今年は怪我なく続けることが目標だった。無理せず、楽しめるレベルで課題と向き合うこと。ある程度登れるようになったら外岩に行く計画も立てていた。

しかし続けていると自ずと強くなっていくもので、するとふつふつと欲が出始める。もう少し痩せれば1グレード上げれるんじゃないか。そう思って糖質を断って、ランニングを始めた。

走り始めて1ヶ月ほどで体は軽くなって、確かに前より登れそうな、そういう感覚を掴みはじめた時だった。きっと気持ちが舞い上がっていたんだと思う(そういう時は往々にして痛みを感じなかったりする、経験則として)。年始めに立てた目標は頭の隅に追いやって、自分の限界グレードを追いかけてしまったのだろう。まぁよくあることだ。

体が硬いことは重々承知していた。特に右脚の股関節が絶望的に硬い(もちろん左足も硬いけど、右脚ほどではない)。足の裏をつけて行うストレッチなんて座っているのがやっとで、気を抜いたら後ろに転がりそうになる。だから毎晩風呂上がりに、30分ほどかけて下半身を中心にストレッチはやっていた。気持ち程度柔らかくなった気もする。いや気のせいかもしれない。とにかく硬いのだ。どこもかしこもピンと張っていて、それ以上伸ばすとプツンと切れてしまいそうな、そういう硬さ。だから怪我をするもの必然だったのだろう。

10代、20代の頃は怪我をしても1ヶ月くらいで治ったような記憶がある。そもそも怪我をしなかったかもしれない。その頃はもしかしたら今より幾分か柔軟性があったかもしれない。もちろん筋力もあった。無理もきいた。

ここ2年間は多くの時間を怪我持ちで過ごした。そのほとんどが趣味のクライミングが原因。

体を動かすことは楽しい。日々のストレスは体を動かすことで忘れることができる。特にクライミングは最高だった。登っていればだいたいのことは意識の外にいってしまう。一人で目の前の課題と向き合う時間は贅沢な時間だった。
もちろん誰かと一緒に登る時間も最高に楽しい。僕は人見知りだけど、壁を前にすると普段に比べてずいぶんと話すことができた。あーでもない、こーでもないと、一緒になって同じ課題に打ち込んでいると、いつの間にか仲良くなれた。

まだ30前半。ちょっと諦めるには早くないかと思う。まだやればできる気もする。しかしどれだけ気をつけても、きっとまた怪我をして、数ヶ月じーっと治るのを待つことになるだろう。待つことに疲れた。楽しい時間からの落差が余計にそう思わせるのかもしれない。

これからも月に1度くらいは登ろうかと思う。だけどもう、週に何度もジムに通うのはやめる。もう夢中になって壁に向かわないのかと思うとけっこう寂しかったりもするけど、運動は他にもある。    幸いダイエット目的で始めたランニングが楽しかった(もちろん今は走ることはできないけど)。脚が治ったら、もう少し真剣に走ってみようと思う。